コラム



岩見沢校初集中

7月18~28日,岩見沢校での初めての集中講義があった。
一週目は4日間、二週目は3日間の計7日間、各3時間~4時間半だから、学校時間では約30時間にあたる。

岩見沢校の1年生の授業方法は、特殊な形態をとっているから説明しておく必要があるだろう。
岩見沢では、1年生のうちは美術の多様なジャンルを広く経験させ、2年目に入る時点で専攻を決めさせる考え方をとっている。
したがって、岩見沢校の今年からの授業は、下表のように2週間一区切り、基本的には午後3時間を8日間で完結する集中講義が7回設定されている。

学生は7回のうち少なくとも6回、いずれかの授業を履修することが義務付けられているのだが、各回とも3種類の異なる授業が同時に開講されている。
私が担当する時期は、赤丸で囲んだ前期集中の最後の部分である。
この時期には、「油彩第二」と「書第三」そして「アニメーション」の3種類の授業があった。

初日の18日、約70名の学生が一同に集められた。学生は希望別に集合するから当然人数に偏りが生じることになる。
最も人気があったのはアニメーションで38名ぐらいが希望した。私のところは約20名、書道が十数名の希望者だった。
その後、強力に移動を促したところ、私の「油彩第二」の受講者は結局28名となった。
岩見沢校には、絵画分野の担当教員は私以外に2名いる。したがって、上表の集中講義の中には3つの絵画コースが開講されている。事前に確認したところ、「油彩第一ではモデル」を使い、「油彩第三は静物画」を油彩で描いたとのことであった。したがって、私は「自画像」を使って、「絵画表現を考える」ことを含めた内容を行おうと考えていたのだった。
ところで、私の集中時期の直前、つまり先週までは「日本画」と「空間造形」の2種類が実施されており、今回私が岩見沢へ最初に行った時には、双方ともにまだ学生たちの制作物は残されたままであった。


 

 

ウッ…自画像が…!
授業開始の前日、集中に使用するアートファクトリーの一室に行って驚いた。10号ほどの日本画による自画像がズラリ並んでいた。しかも、けっこう上手な自画像が並んでいる。
「ウッ…、これは困ったことに… 」
そう思った。

「初めての日本画なら、どうせ簡単な静物か、お花ぐらいだろうサ… 最初から顔を描かせるわけはないわな」 
私は、そんな考えから、鏡を使用しての自画像制作を予定していたのだった。

1週目の4日間は自画像、2週目は抽象画
「日本画」を選択し、そして引き続き「油彩第二」を選択する学生もけっこう居ることが予想された。しかし、いまさら内容を変更するわけにはいかない。
 「え~ッ、また自画像なの~ 」
学生たちのボヤキが聞こえそうな気がした。
多難な幕開けだった

 

(下表のオーカー部分は実習部分、そして黄色部分は美術史に関連させたパワーポイント使用による解説




 
外ではショベルカーが…
アートファクトリーの外では外溝工事の真っ盛り。数台のショベルカーが唸りをあげ、土砂を運ぶダンプが地響きをあげて通り過ぎていく。
騒音にかき消され、ファクトリーの広い空間では、声がなかなか届かない。
「外がうるさくて…」と、世話役の先生に相談した。

「秘密兵器があるんですよ…」
渡されたものは、
マイク+ラジカセの「カラオケセット」だった。

  最初は、「ゴッホ風」
「近代的具象絵画から抽象へ」、これが今回の授業テーマだった。
まずは後期印象派の3人の作風を模写することからスタートし、水彩の不透明描法に慣れた後に、多様な方法による抽象絵画へとつなげる予定だった。
しかし、最も容易だろうと考えていた「ゴッホ風」で、予想外に多くの者がつまづいている。
通常の描画手順とはいえない者が多く、どうにも筆捌きが危うい。

								
  あまりに無頓着な…
何か変だぞ?
よ~く見渡してみると、半数以上の者がアクリル絵の具と、リセーブル筆を使っている。

「おい、リセーブルは描きニクイだろ」
「…リセーブルって何ですか?」
「ナイロン筆のことだよ」
「最初から、この筆だから使いにくいも何も…」
「う~ン」

持参していった彩色筆を貸し与えた。
「本物の筆は、絵の具のモチが良いですね、いつまでも描けるんですネ」
「あの日本画は、彩色筆で描いたんじゃないのか?」
「いえ、この筆(リセーブル)ですよ」
「う~ン」
日本画をリセーブルで描いてしまうとは…あんまりだ

ゴッホ/ゴーギャン/セザンヌ
これは同一人が描いた、ゴッホ・ゴーギャン・セザンヌ風自画像の3枚。でも、3者の区別がほとんど無い。
こんなもの、容易に描き分けられるだろうと思っていたのだが、とんだ見込み違いだった。
この学生は一番しっかり塗れていた。しかし、不透明でキッチリ塗りこんでいく方法を、ほとんどの者が行ったことがなかったようだ。
このあたりは、今後の指導の押さえどころだろう。

半分講義、半分実習の、忍耐の4日間が過ぎた。
心の中はいざしらず、学生たちは黙々と作業をこなしていった。浜益の砂堀り作業でも感じたことだが、皆さん結構忍耐強い。
ひとつのことを我慢強く続けられることは、作家にしろ研究者にしろ最低限の条件だ。その面では皆合格だった。

  抽象絵画も問題だ
さあ、後半は抽象画だ。セザンヌ→キュビスム→カンディンスキー、一連の抽象絵画の黎明期の解説後、「最初の抽象水彩画」の模写を試みさせてみた(左写真は、学生による模写)。
今度はうす塗りだから大丈夫だろうと考えたのだが、どういうわけか、これもまたヘタくそだ。
カンディンスキーのあとは、サム・フランシスの模写だ。またまた全滅だった。
誰もが模写的作業がどうにもならない状態であることが判明したのだった。

  お楽しみはこれからだ
写真左は、釧路から持参した道具類。オイルチョーク、クレヨン、墨、彩色筆、竹ペン、インク、ポスターカラー極太チューブ、指絵の具セット、ドライアーなど。

「あ、幼稚園以来だナツカシイ」
指絵の具セットはなかなか講評だった。

抽象絵画6時間コース
この頃からブルーシートに座り込み、じっくりと制作する者が増えてきたつなぎを着てるから汚れ作業も安心だ。
試作品がつぎつぎと出来上がってくる。

アートファクトリーは、夏場はさぞや暑かろうと思っていた。しかし、予想に反して暑くない。天井が高いこともあろうが、天井に設置された2機の巨大な「扇風機」が心地好い風を吹き降ろしてくる。
2週目になると、外溝工事も遠のいて騒音問題は解決だ。
学生たちは、生き生きのびのびと、抽象表現の試行錯誤を繰り返していく。階段上から絵の具を垂らす者も登場。

 

出来上がりは隣の部屋へ
「表現主義的抽象絵画を3点以上展開する」というのが、後半の課題だった。一人3点、仕上げた順に隣の部屋に並べていく。



こんな作品ができました

 

 

 
   


6時間にしてはなかなかの出来だった

上の作品写真は、予想をはるかに超えたできばえだった。
若々しくて活気ある作品だ。
今後、素材と技法を追求していけば、相当みごたえある作品に成長させることが可能だろう。

相も変わらず描き続けられている「意味なしポーズの暗い人物画」はもういい加減に止めましょう。そして、他人との差異ばかり目立たせるための、コケ脅かしの「展覧会絵画」も、もう止めよう。
キレイで心地好く、身近において眺めていたくなるような作品をつくりましょう。
学生たちが、今回の私の授業内容をきちんと受け止めてくれたなら、きっと私の思いに応えてくれるようになるだろうと期待しています


おまけ
これが、ファクトりー名物「とっても長い水道のとって?」(表現がおかしいのだが何と言えばよいのか?)
水場をでっかく造りすぎ、手が届かなくなったので、水道のとって(ひねり)を長~くして、なんとか使えるようにしたしろもの。

感想
札幌/岩見沢に滞在中、その半分は気温が25度から29度の真夏を感じさせる日々だった。
ジリジリと照りつける陽の光を避け、街路樹の日陰を求めつつ歩道を歩く経験も、ずいぶんと久しぶりだった。

おかしな言い方なのだが、岩見沢の皆さんは夏のお嬢さんばかりだな、と思った。
これまで長いこと釧路の夏ばかり経験していたから、夏姿のお嬢さんがいっぱい居るのは、すごく新鮮だった。
そして、ほぼ毎日、「一万歩」あるいたのも久しぶりだった。

なによりも、学生たちはやる気があるから面白かった。
70人ぐらいのみなさんが、美術や書道やそのあたりを目指している連中ばかりだということは
美術が「生きている」証のように思えて勇気づけられたのです。

ともあれ、
心身ともに健康的な毎日でした。


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