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WEB-ATELIER通信

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                                                           コラム更新日2007/8/2

2007年 今月のコラム 

 8月  

1年/前期集中

前期終了も間近な7月17~27日にかけて、1年生対象の2週間集中を行った。
この授業は、2週間のうち8日間の午後を使い、計30時間で実施する変則的な形式である。この授業については、昨年のコラムでもお伝えしたことがあった。
昨年は、はじめての実施でもあり内容的に不備な点があった。そこで、その後実施した後期の授業では、授業の前半部分を大幅に改良し、さらに今年は前半作業に手を加えてみた。
その結果、完成度が高い授業内容に仕上がってきたと思う。学生たちの制作物も相当レベルアップしたように感じられた。

床で描く

今年は合同実習室をつかうことができた。だから、全体スペースが昨年の倍近くあり、写真のように床で描く作業もゆったりと行うことができた。
今回の制作テーマは「水性系用具を用いた、ドローイング的抽象表現」とした。そして、主として「技法的観点からのアプローチ」という点を強調した。作業内容が昨年よりも明確で、学生たちは取り組みやすかっだろう。

今年の改善点

今年は、1週目の最終日に12センチ角の画用紙を600枚用意して、表現テクニックの試作を行った。約2時間かけ、できるだけオリジナルな方法を考案させそれを掲示した。
これらは、いわゆるモダンテクニックといわれる内容で、よく中学生に行わせている教材である。通常は中学生レベルでは、これらを幾種類か考えさせることで終わりにしてしまっている。
しかし、今回の授業では、ここからがスタートだ。これをもとにして2週目に9時間かけて本制作を行った。
今年の完成作品は格段にハイレベルだった。おそらくその要因は、一人あたり20枚の用紙を用意し、じっくり行ったこの作業にあったと思われる。

これはスゴイ

一番面白く、しかもアッと驚いた技法がこれだ。
薄めに溶いた水色の絵の具を一面に塗った上にいろんなモノが置いてある。これに時間をかけて少しずつ絵の具を増やしていくと

なんと、モノが置かれた部分に絵の具が溜まり、カタチが浮かび上がってきた。これは抽象表現とは全く関係ない表現なのだが、こんな奇抜な方法を考えだした人がいたのには驚いた

最後に

最終日は講評会。
四つ切りサイズの約100点の作品が並ぶとなかなか壮観だ。ひとり5票の持ち点で、自分以外の作品への人気投票を行った。

人気投票の結果は意外だった

33名から提出された約100点の作品から、各1枚を抽出して並べたのが、左の写真だ。だからこれらがほぼ全員の作品ということになる。
縮小してしまうとディテールが見えないから判りにくいのだが、いずれもじっくり取り組んでいて、大変密度ある内容だ。
学生に人気が高かった、ベスト3は一番上の3名の作品。油絵の具を塗り込めたような材質感があり、しかも内容的にも個人的なメッセージが感じられる作品だった。
もっと華やかで軽やかなものが好まれるかと思っていたから、この結果は、私には意外だった。
この、一見すると「地味」で「重厚」な感じの作品への好みは、自分には無いものを求めた結果なのか、こうした傾向が絵画表現の理想だと考えているのか分からないが、この時期に特有の好みなのかも知れない。
高文連の油彩作品に見られるような、重々しくて古くさい描写傾向も、こうした好みの一環なのかもしれない。
しかし、私が学生たちに期待しているのは、こうした傾向とは「反対」の水彩画的な軽妙でオシャレな雰囲気なのです。だから、この傾向から早く脱出させるにはどのような指導が望ましいのか?問題がまたひとつ出来てしまいました。


7月展

「7月展」は、もともと札幌校美術科学生による自主制作展示であった。札幌での新規募集が停止された昨年からは、札幌校+岩見沢校の有志学生による合同展として行われてきている。上級生が不在のIWA学生にとっては、展示方法を教わるのには絶好の機会となる。それにつけても「7月展」とは、何と芸の無いネーミングだろう。

今年は、総勢110名にも及ぶ大集団による展示だ。
この「市民ギャラリー」は、道展や全道展なども行われる会場だから、一見するとまるで公募展が開かれているようにも感じられる。


遠目に作品を見た限りでは、会場が「公募展ポイ」。しかし、近寄って良く観ると、いずれの作品も何か物足りない。
それは、発想とかオリジナル性とかではなく、技術的な面で、未完性・不十分といった感じがするからだろう。
本当は、ここに展示してあるレベル時点から、さらに後半の仕上げに向かわねばならないところなのだが、下書きに毛が生えた、このあたりで「出来た」と思ってしまうのだろう。
だから、プロ作家と比べると完成度が50%といったところか。
大学院生あたりになるとその部分がだいぶ上達し、仕上げ感にこだわりが見られるようになる。

デザインや映像関係の作品も結構な数が展示してある。しかし、絵画や彫刻に比べると、こうしたジャンルの作品は展示方法が難しい。
通常の美術作品というものは、作品内容が一目で見渡せるように展示されている。しかし、パソコンに入っている作品は、パッと見ただけでは中身が見えない。
どうやって見たら良いのかを、まず考えなくてはならない。だから、ついめんどくさくて素通りしてしまいがちだ。

同様に、映像作品も暗がりのスペースに入って、「待って見る」というスタイルが多い。しかも、見るというよりも映されるものを「見させられる」ことに我慢できない部分を感じることが多い。
これらのジャンルにおいては、展示手法の改善が今後の課題でしょうね。

なかなかですね

IWAの2年生で、なかなか良いですねと思った絵画作品は左の2点。
仕上がり感はまだまだですが、将来性が感じられる良い作品ですね。

ところで、会期終了後に1年生の授業の際に、
「7月展を見に行った人?」と尋ねたら、半数ぐらいの人しか手を挙げなかった。
これは良くないことだと思いますよ。
「作る前に観る」「創るより観る」
これを重視してほしいですね。

ゴールデン豚

札幌生の彫刻作品ではこれが一番ですね。何が悲しくてこんな変なモノを作ったのか分かりませんが、
「どんな人が作ったのかな?」と、作者の人柄を想像させる、とても楽しい作品ですね。
こういう彫刻を、札幌駅のヤスダカンさんの作品の隣に置いて欲しいですね。
もう、ただの石の固まりのような彫刻とか、女風呂の脱衣場に居るような人体彫塑なんか、見たい人は誰もいないですものね。
これからの学生には、絵画も彫刻も、こんな楽しい作品を作ってほしいと切に願っている私なのです。

大学説明会

8月1日、札幌駅のはす向かいにあるアスティというビルで行われた受験者向けの説明会に出向いた。
これは「美術・映像・漫画・アニメ」系に限定した、ちょっとマニアックな進学説明会だった。
どんな「オタク受験生」がやってくるのかわからないから、私ひとりでは心もとなかった。しかし、IWA美術コースきってのオタク教員の「イ」先生とともに出向いたので心強かった。
開始時刻30分前に集合することになっていたので、定刻に到着したのだが、会場に着いて
『!!」と驚いた。
時折耳にすることのある、京都・名古屋・東北などの私立の10芸術系大学が参加したブース形式になっていたのだが、いずれの大学のブースにも、巨大なイメージポスターや過去の入試実技作品などが、与えられた壁面一杯にビッシリ貼られている。
そして、テーブルの上一面に豪華そうなパンフレットや、一目でDVDでも入っていることが分かる、お土産セットなどが積み上げられている。
見るからに力が入っていることが分かるブースばかりではないか。
「教育大さんはこちらです」
係の人に教えられ、うちのブースを見ると、真っ白な3面の壁に囲まれ、長机が4つ置いてあるだけの6畳ほどのスペースがあった。なにもない壁の白さが異様に輝いていた。
ほどなく現れた「イ」先生の口からも、
「ちょっとマズいですね、コレは!」
「事務の人が去年のポスターを何枚か持ってきてくれるはずですが、それだけしかありませんから、自宅からプロジェクタを持ってきましょうか?」
その後、到着した事務官に相談したのだが、電源を使用するには特別料金が必要で、その支払いのためには「本部の許可がいりまして」とか。
「・・・しかたない、ポスターだけで行こう」
と、いうことになった。
よって、うちのブースは、何だかやけに暗っぽいデザインの、「去年」の残りポスター5枚を一列に画鋲で止めただけの、超シンプルなブースに仕上がったのだった。
1時半から5時半までの4時間で、全体で140名ほどの来場者があったという。そのうちで、うちのブースに立ち寄った受験生は約40名だった。
「昨年は20名程度でしたから、今年は多かったですね。定着したのかな?」とは事務官の弁だった。
結局、オタクっぽい人は誰も来なかった。
それよりも、6月のセミナーに参加した人が、作品を講評してほしいと持参してきたり、「去年落ちました」という受験生も数名いたりして、ほとんど休む暇なく相談者が続き、普通の説明会よりも忙しいほどだった。
「いやあ、今日はよく働きましたネ」とは、終了後の「イ」先生の弁であった。
ところで考えてみれば、会場の一番奥まったところに、遠目に見ると白壁に黒っぽい帯が貼ってあるだけの変わったブースは、どことなく
「現代アートっぽく見えたかもしれないな」
帰りがけに、そんなことを考えた。

           おわり